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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)4403号 判決

原告

社会福祉法人船橋保育所

右代表者理事

大石秀夫

右訴訟代理人弁護士

芹田幸子

被告

細川禮子

右訴訟代理人弁護士

坊野善宏

瀬戸俊太郎

主文

一  被告は、原告に対し、金一七五〇万円及びこれに対する昭和五五年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の主位的請求及びその余の予備的請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)(主位的請求)

被告は、原告に対し、金三三〇二万四五二六円及びこれに対する昭和五五年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)(予備的請求)

被告は、原告に対し、金二八〇一万円及びこれに対する昭和五五年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和四八年四月から同五五年三月九日まで、原告の理事長兼施設長として、原告の業務一般、会計業務ことに金銭の管理保管業務を担当していた。

(主位的請求原因)

2(一)  被告は、右原告の理事長兼施設長に在任中に、国、大阪府、枚方市から、原告に対して交付された、措置費、民間社会福祉施設従事職員給与改善費補助金などの補助金、及び保育児童の保護者から原告のために集金した保育料、入園料、保育材料費、冷暖房費、協力寄付金などから、合計八〇二〇万二八五六円を原告に引き渡さずに、これを横領し、少なくとも合計七三八二万円にのぼる不法な資産を形成した。原告は、被告に対し、右横領した金員のうち明確に判明している(二)の金額について支払を求めるものである。

(二)  被告は、原告の理事長兼施設長在任中の昭和五〇年度以降同五三年度までの間に、右措置費、補助金、保育料、入園料、保育材料費、冷暖房費、協力寄付金等のうちから、別紙決算書記載のごとく原告の施設会計に留保されていなければならない合計三三〇二万四五二六円の金員を原告に引き渡さず、これを横領した。

3  被告は、原告に対し、右不法行為により、右2の横領額である三三〇二万四五二六円の損害賠償義務を負担する。

4  被告は、原告の管理運営事務の受任者として委任事務を処理するにあたり受け取つた金銭そのほかの物を、原告に引き渡さなければならないものである。したがつて、2の三三〇二万四五二六円は、昭和五〇年度以降同五三年度までの原告の収入すなわち、措置費、補助金、利用料、寄付金(入園料、協力寄付金、保育材料費、延長保育料、共同募金)、雑収入などの収入合計一億七七〇六万二五六五円から、人件費及び一般経費を控除した残金であり、被告が原告の委任事務を処理するにあたり受け取つた金銭であるといえるから、被告は右金銭の引渡義務を負担するというべきである。そして、右引渡義務の履行期は、被告が右各金銭の引渡を受けるつど右各金銭について到来するから、遅くとも被告が原告の理事長及び施設長を辞任して原告と一切かかわりがなくなつた日である昭和五五年三月九日の翌日から右三三〇二万四五二六円の金額について引渡義務の履行遅滞に陥つたものであるというべきである。

5  被告は、原告に対し、受任者として委任事務処理の状況の報告義務を負担しているにもかかわらず、これを怠り、原告からの再三の要求を無視して右報告を一切しなかつた。

すなわち、原告の理事豊岡久子(以下「久子」という。)は、昭和五一年ころから、被告に対し、口頭で繰り返し会計の内容を明らかにするように求めてきたのみならず、理事岡田一郎も、同五五年一月末ごろ及び同年二月末ごろに、被告に対し、いずれも内容証明郵便により、理事会を開催して委任事務の処理の状況特に会計の報告をするように要求し、また他の理事等も、同年三月九日開催の原告理事会において、被告に対し、使途不明金の内容を明らかにするように要求した。しかし、被告は、これらにつき返答することができず、結局原告の理事長及び施設長を辞任した。右辞任のさいにも、他の理事等から原告の顧問税理士の調査に協力して原告設立以来の会計事務の顛末を明らかにするように要求され、被告はこれに応じたものの、現在に至るまで一切これを履行していない。

かりに、被告から右委任事務処理の状況の報告を受けていれば、原告は、2の三三〇二万四五二六円の原告の施設会計に内部留保されているべき金員があることを知り、被告の横領行為を防止することができたのにもかかわらず、被告が右報告義務を怠つたために、右金員の横領行為を防止することができなかつたものである。

したがつて、被告は、原告に対し、委任契約上の債務不履行により、右三三〇二万四五二六円の損害賠償義務を負担する。

(予備的請求原因)

6  かりに、2ないし5が認められないとしても、被告は、原告に対し、以下のとおり、委任契約上の債務不履行ないし不法行為により二八〇一万円の損害賠償義務を負担する。

すなわち、原告は、原告保育所の開設費用にあてた借入金の弁済金を除外すると、各年度の保育所の運営に必要な費用は、すべて当該年度に交付された措置費及び補助金でまかなうことができるが、さらにまた別紙計算書(一)のとおり、右保育所の開設費用にあてた借入金もすべて自由契約児童からの収入で弁済することができたことが計数上明白であり、かつ右借入金の弁済金及びその他必要経費を控除したうえでなお、原告には約一〇五一万円の利益が生じたはずである。したがつて別表二記載7ないし9、12ないし14の合計一七五〇万円の借入金は、原告のためには全く不要な借入金であつたといえるのであり、原告が右一七五〇万円を借り入れた原因は、別表五記載の理事、理事長手当合計二六四〇万円を支出したことにあつたというべきである。被告ら原告の理事及び理事長が、原告の収入から理事及び理事長手当を取得しうるとしても、それは原告に生じた右一〇五一万円の利益の限度にとどまるべきであるところ、被告は、原告の利益よりも約一五八九万円も多い金額の金員を理事及び理事長手当として支出したものといえる。そうすると、被告は、右原告に残存するはずの利益一〇五一万円を自己または第三者のために費消し、かつ原告には不要であつた一七五〇万円の借入金を原告を代表して借入し、右借入金を自己または第三者のために費消したのであるから、委任契約上の債務不履行ないし不法行為により二八〇一万円の損害賠償義務を負担するといえる。

(結論)

7  よつて、原告は、被告に対し、主位的に、不法行為による損害賠償請求権、委任契約による受取物引渡請求権、ないし委任契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、三三〇二万四五二六円及びこれに対する不法行為の後ないし遅滞に陥つた後である昭和五五年三月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、予備的に、委任契約上の債務不履行ないし不法行為による損害賠償請求権に基づき、二八〇一万円及びこれに対する債務不履行ないし不法行為の後である昭和五五年三月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  同1の事実のうち、被告が昭和四八年四月から同五五年三月九日まで原告の理事長兼施設長であつたことは認め、その余の事実は否認する。原告の業務一般、会計業務ことに金銭の管理保管業務は、同四八年四月から同五四年五月下旬ころまでは、久子が担当しており、その間、被告は、宗教法人西願寺の経営する一条幼稚園の園長(施設長)として活動していた。

2  同2ないし6の各事実及び主張は争う。

三  被告の主張

1  原告保育所の開設にさいして支出した開設費用とその資金(借入金及び補助金)の概略は別表一記載のとおり、右借入金とその後に借り入れた借入金(運転資金などに使用するために借り入れたもので、別表二記載7ないし14の借入金がこれにあたる。)の明細は別表二記載のとおり、自由契約児童からの収入(正規収入すなわち委託措置費、補助金以外の収入であり、寄付金収入も含まれている。)と右収入に対する支出(正規収入による支出すなわち職員給与、給食費、教材費、事務費、光熱費、役務費、福祉厚生費など以外の支出)の年度別収支状況は別表三記載のとおり、別表二記載の借入金の弁済額の年度別明細は別表四の一ないし九記載のとおり、理事及び理事長手当支給の内訳は別表五記載のとおりである。なお、別表二記載1―AないしCの借入金は、同1の借入金の弁済のために借り入れたものである。また、私立保育所乳幼児保育助成金は、各自由契約児童の保護者に現実には交付せずに、保育料から控除している。

2  1のとおり、原告は、原告保育所開設にさいして約八〇〇〇万円の資金を要したが、大阪府や枚方市から交付された補助金は約四五〇〇万円にすぎなかつたため、結局約三五〇〇万円の赤字を出した。

そして、年度別収支の推移は、次のとおりである。

(一) 昭和四七年ないし同四九年度

(昭和四七年度)

約二〇一万円の支出。

(同四八年度)

約一二〇万円の収入に対して約一〇四〇万円の支出

(同四九年度)

約一二〇万円の収入に対して約一四二六万円の支出。

この時期は、原告保育所の草創期で最も苦しい時期であり、右の不足額(約二四二七万円)は、別表二記載7ないし9の銀行からの借入金、久子からの借入金のほか、被告の給料(原告保育所分月額一七、八万円、一条幼稚園分月額三〇万円)などをつぎ込んでまかなつた。

(二) 同五〇、五一年度

(同五〇年度)

約一二〇八万円の収入に対して約一九八八万円の支出。

(同五一年度)

約一二八八万円の収入に対して約一八一五万円の支出。

この時期は、自由契約児童数が増加し、経営が好転した時期であり、被告に理事長手当(月額三〇万円)が支払われることになつた。しかしながら、右不足額(約一三〇七万円)を補うため、理事長手当のほか別表二記載12の借入金及び被告の給料(月額約二〇万円)などをつぎ込んだ。

(三) 同五二、五三年度

(同五二年度)

約一八六〇万円の収入に対して約一七一九万円の支出。

(同五三年度)

約一八七三万円の収入に対して約一四六八万円の支出。

この時期は、収入が支出を上まわつた時期であり、被告が(一)、(二)の時期に原告のために支出した金員の一部を回収することができた。

(四) 同五四年度

約一一〇九万円の収入に対して約一四一九万円の支出。

この時期には、自由契約児童数が減少したために約三一〇万円の不足額を生じたが、右不足額を補うために別表二記載13、14の借入金を借り入れた。しかしながら、この段階で長期借入金を除いてほとんどの借入金を弁済した。

3  以上のとおり、被告は、自己の収入を原告のために支出したことはあるが、原告の有する金員を横領したことはない。特に、昭和五二年六月以降は、原告から理事長手当(月額約三〇万円)、給料(月額約二五ないし三一万円)の全額の支払を受け、ほかに一条幼稚園から給料の支払を受けていたので、原告の有する金員を横領などすることは絶対にない。

四  被告の主張に対する反論

1(一)  別表一資金欄記載①豊岡久子一三〇〇万円は、同⑥大阪府補助金一三四六万四〇〇〇円と重複するので、これを右欄に記載すべきではない。すなわち、原告は、原告保育所開設にあたり、その建物の建築費用として要した四四七〇万円を、大阪府及び枚方市からの補助金合計約二二四六万円、社会福祉法人振興会(以下「振興会」という。)からの借入金一七〇〇万円、社会福祉事業協議会共済会(以下「共済会」という。)からの借入金四〇〇万円をもつてまかなつたのであるが、右補助金及び借入金の交付日が、建築費用の支払のために交付した手形の満期日より遅れるため、一時的に右補助金及び借入金を得るまでのつなぎとして、久子から右一三〇〇万円を借り入れて右手形の決済資金にあてたものであり、右一三〇〇万円の借入金は、本来右補助金ないし振興会及び共済会からの借入金が原告に交付されたさいに、右補助金ないし借入金によつて弁済されるべきものである(実際は、被告が右補助金ないし借入金を横領したため、右補助金ないし借入金によつて久子に対してなすべき弁済を行つていない。)

また、右事情によれば、別表二記載1の一三〇〇万円と被告が右1の借入金の弁済のために借り入れたものであると主張する同1―Aの二〇〇万円、1―Bの九〇〇万円、1―Cの五〇〇万円は、別表二に借入金として記載すべきものではないことも明白である。

(二)(1)  別表一の開設費用欄に設計管理費二二〇万円が記載されているが、これは現実には支出されず、建築費四四七〇万円(別表一には建築費四四〇〇万円と記載されているが、これは事実と相違する。)の中に含まれている。

(2)  同欄に初度調弁費七〇〇万円が記載されているが、実際は二六〇万四五六〇円である。

(3)  同欄に空調費三八〇万円が記載されているが、実際は三六〇万円である。

(三)(1)  別表二記載7、8の各五〇〇万円の借入金は、運転資金にあてたものではなく、同表記載1の借入金と同じく、大阪府や枚方市からの補助金及び振興会や共済会からの借入金の交付日が建築費の支払期より遅れるために、一時的に右補助金及び借入金を得るまでのつなぎとして、右各五〇〇万円を借り入れて右建築費の支払にあてたものである。したがつて、右各五〇〇万円の借入金は、本来右補助金ないし借入金によつて弁済されるべきものであるから、別表二に借入金として記載すべきものではない。

(2)  同表記載10、11の各借入金については、原告は、原告保育所開設以前に既に原告保育所の運動場用地を購入しており、原告が原告保育所の運動場用地購入のために右借入金をあてたことはない。右10の四〇〇万円の借入金は、全額、被告において西願寺の庫裡の改造費、枚方市所在の被告の自宅の内装費の支払に充当し、これを費消して横領したものである。

(3)  同表記載11の一〇〇万円の借入金は、被告が購入した翡翠の代金の一部に充当してこれを横領したものである。

(4)  同表記載14の二五〇万円の借入金は、原告の運転資金ではなく、被告が、原告の職員に対する人事院勧告実施分支給額に対する大阪府からの措置費と枚方市からの補助金のうち、昭和五三年度分合計一八五万八〇〇〇円を横領していたところ、昭和五四年末の監査に備え、その弁償にあてるために、銀行から借り入れたものである。

(四)  久子は、昭和四八、四九、五五年度には理事手当を全く受領しておらず、同五〇年度から同五三年度まで毎月五万円合計二四〇万円、同五四年度には毎月一〇万円合計一二〇万円の総合計三六〇万円を受領しているにすぎない。したがつて、久子に支給された理事及び理事長手当についての別表三、五の記載は実際より三九〇万円過大である。

2  別表一ないし五においては、以下の金員の各入金の事実及びその使途が明らかにされていない。

(一) 枚方市からの私立保育所乳幼児保育助成金(原告の定数外保育児童の保護者に対し、枚方市が交付する助成金で、原告は枚方市から右保護者に代わつてこれを受け取り右保護者に交付すべき性質のものである。)のうち、昭和五〇年九月二二日から同五四年五月二一日までに交付された分 合計二四七万四〇〇〇円

(二) 寄付金収入のうち、昭和五〇年から同五四年度までの分 合計四三八万五二五〇円

これは、入園料、協力寄付金、保育材料費、延長保育料などから成つており、定数外保育児童の保護者からのみならず定数内保育児童(九〇名)の保護者からも徴収している。

(三) 国と大阪府と枚方市から交付される人件費補助金(昭和五〇年度ないし同五四年度の分)のうち、被告が職員に支払わず、横領した分 合計一九四九万七〇六四円

(四) 枚方市から交付を受けた措置費及び運営費補助金のうち、保育材料購入代金にあてるべき分 合計三三三九万九三七五円

3(一)  1、2で指摘した被告の使途不明金は合計八二九八万円に達し、これは原告が請求原因2(一)で被告が不法に形成した資産の金額であると主張している七三八二万円とほぼ符合している。

(二)  別表二記載の各借入金のうち原告のために支出したものと認められるのは、同表記載2ないし5の各借入金合計四三〇〇万円だけであり、同表記載の各借入金合計九八三〇万円から右四三〇〇万円を控除した五三三〇万円は、原告が私的に流用した金員である。また、別表三記載の理事及び理事長手当合計二六四〇万円のうち、久子が現実に受領した三六〇万円を控除した残金である二二八〇万円は、現実には支給されておらず、単に被告が事業実績報告書により、右金額が理事及び理事長手当として支給された旨虚偽の報告をしているにすぎない。

そして、右金員二二八〇万円と右五三三〇万円の合計七六一〇万円は、原告が請求原因2(一)で被告が不法に形成した資産の金額であると主張している七三八二万円とほぼ符合している。

(三)  かりに、被告主張のとおり、原告保育所が設立のさい約三五〇〇万円の赤字を出したとしても、別表三記載の原告の昭和四八年から同五四年までの自由契約児収入合計七五七七万三五〇〇円から右三五〇〇万円及び被告が原告の理事長在任中に弁済した借入金の金額約六〇〇万円を控除した残金約三四七七万円は、原告に内部留保されているべきはずである。これは、請求原因2(二)の三三〇二万四五二六円とほぼ符合している。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一原告が昭和四八年四月から同五五年三月九日まで原告の理事長兼施設長であつたことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、成立につき争いのない〈証拠〉を合わせれば、以下の事実が認められる。

1  被告は、真宗大谷派宗教法人西願寺の住職である細川哲夫の叔母であり、同寺の経営する京都市上京区所在の一条幼稚園の施設長(園長)である。

そして、久子は、弁護士豊岡勇の妻であり、被告の成安高等女学校時代の同級生である。

2  久子は、かねてより幼児教育に携わりたいとの強い希望を有していたものであるが、昭和四六年ごろ、一条幼稚園を営み、保母の資格を有する被告の協力を得て新興住宅地である枚方市内において保育所を設立することを計画し、久子において、夫豊岡勇の指導を受けながら関係当局との折衝、保育所用地の購入などの保育所設立の準備をし、他方被告において、後記のとおり西願寺所有の不動産を担保に供して建築資金を調達するなどして、両者協力のもとに昭和四八年四月二六日、原告を設立し、原告保育所を開設した。

原告設立にさいして作成した昭和四七年八月一〇日付設立発起人議事録によれば、原告保有の開設費用の予定は、建物建築費四四〇〇万円、空気調整設備費五二〇万円、設計管理費二二〇万円、初度調弁費二六〇万四五六〇円(合計五四〇〇万四五六〇円)、資金の予定は、振興会からの借入金一七〇〇万円、共済会からの借入金四〇〇万円、大阪府からの補助金一三四六万四〇〇〇円、枚方市からの補助金九〇〇万円、自己資金一〇五四万四五六〇円(合計五四〇〇万四五六〇円)であり、右金額を、厚生省の認可を受け、大阪府及び枚方市から補助金の交付を受け、あるいは振興会や共済会から金員の借入れをするさいに、申請書に記載し、右記載どおりの金額の補助及び借入金の交付を受けた。被告は、右自己資金を調達するため、昭和四六年七月一〇日、西願寺に、富士銀行(西陣支店)から京都市上京区葭屋町通一條下る福大明神町一〇五番地所在の西願寺所有の土地建物を抵当物件として一〇〇〇万円を借り入れてもらい、これを被告が西願寺から借り入れたが、被告はこのうち六一〇万円を自己の債務の支払に充当し残りの三九〇万円のみを原告に寄付した。空気調整設備費は、実際には右予定額より少ない三八〇万円ですんだが、自己資金が右予定額より少なくなつたため、右設備費は、住友銀行からの借入金(別表七記載6)をもつて支弁した。原告保育所の土地(枚方市西船橋一丁目九六五番六四 宅地 三九九・四一平方メートル、同所九八九番八 山林 二六二平方メートル)代金二二〇〇万円は、住友銀行からの借入金(当初は大正相互銀行から借り入れたが、のちに住友銀行に借りかえた。)合計二二〇〇万円(別表七記載4、5)でまかなつた。右住友銀行からの借入金は、当初右原告保育所の土地を抵当物件としていたが、振興会から別表七記載3の借入金を借り入れるためには、原告保育所の土地に第一順位の抵当権を設定しなければならないので、右住友銀行からの借入金の抵当物件を一条幼稚園の土地及び建物に代え、原告保育所の土地に、右振興会からの借受金債務を被担保債務とする第一順位の抵当権を設定した。なお、原告保育所の土地の登記名義は、西願寺のものとなつているが、実際には原告が右土地の所有権を有している。その他、原告保育所の開設費用の不足分は、久子からの借入金(別表七記載1)でまかなつた。

したがつて、原告保育所開設にあたり、支出した開設費用とその資金(借入金及び補助金)の内訳は、別表六のとおりになる。

もつとも、開設費用欄の建築費、設計管理費の額は、原告保育所開設にあたり補助金などの交付を受けるために申告した金額であり、現実には右金額より少額である可能性があるが、現実の正確な支出額は明らかではない。また、同欄の初度調弁費は、定数内児童(九〇名)に関するものに限られるが、定数外児童(自由契約児童)に関する什器、備品の代金なども、すべて同表資金欄記載の補助金及び借入金でまかなわれ、定数外児童からの収入を、右借入金の弁済にあてるということはあつても、右代金の支払に直接あてる必要はなかつた。久子からの借入金のうちには、一部、補助金及び振興会や共済会からの借入金が現実に交付される日が、原告において建築費の支払のために交付した手形の満期日より遅れるために、一時的に右補助金及び借入金のいわばつなぎとして借り入れたもの(これは、右補助金ないし振興会及び共済会からの借入金が原告に交付されたさいに、右補助金ないし借入金によつて久子に対して弁済されるべきものである。)、及び原告保育所開設後に借り入れたものが含まれており、これらは、右資金欄に記載されるべきではないが、その金額は明らかではない。

3  被告は、原告の設立とともに理事及び原告の唯一の代表権者である理事長に選任され、あわせて施設長(園長)を兼ねた。原告は、設立当初から、措置費、すなわち保育に欠ける児童につき、国の機関たる枚方市長が原告に入所の措置を採つたため、その入所後に要する費用を国(枚方市)が原告に支払うもの(定数内の児童(九〇名)についてのみ支払われる。)、あるいは補助金、すなわち、大阪府が常勤職員につき、各人の経験年数に応じて格付を行い、格付に対する所要給与額を算出し、右所要給与額から措置費に含まれる給与額とみなされる額を控除した額を支給し、または社会保険料の事業主負担分について補助する、といつた内容の民間社会福祉施設従事職員給与改善費補助金、及び、枚方市が支給する保育所の運営費に関する民間保育所運営費補助金(職員手当加算が含まれている。)などの補助金の交付をうけ、また枚方市から定数外児童(自由契約児童)の保護者に対して支給される私立保育所乳幼児保育助成金という補助金を、当時、原告において、他の保育所と同様に、保護者の申請手続を代行して保護者の代わりに受領していた(保育所は、これを直接保護者に交付するか、またはあらかじめ保護者から徴収すべき保育料から減免するかのいずれかの方法で、保護者に還元していた。)が、被告は、これら措置費、諸種の補助金の受領、及び定数外児童(自由契約児童)の保護者からの保育料の受領、各金融機関からの借入、並びに右受領ないし借入した金員の保管及び支出などの出納権限を有していた。また、被告は原告の代表者印、銀行通帳、そして昭和五四年一一月二七、二八日ころまでは小切手帳も保管していた。ただ、被告は、前記のとおり一条幼稚園の園長を兼務していたので、原告へは週一、二回程度出勤するだけで、常勤ではなかつた。

一方、久子は、原告設立時に理事に選任され、事実上の副園長として原告保育所に常勤し、被告の指示に基づき帳簿(源泉徴収簿、給与台帳、社会保険台帳も含む。)の記帳、国、大阪府、枚方市から措置費や補助金の交付を受けるために提出する予算書、措置費の請求書、民間社会福祉施設従事職員給与改善費補助金・事業実績報告書・支給状況報告書・個人別支給状況報告書・給料公私格差是正経費所要額計算書の作成などを行い、昭和五四年一一月二七、二八日以降は、小切手帳を被告と久子が共同で使用する机の中に入れて保管していた。

なお、原告は、原告保育所の設置経営(第二種社会福祉事業)を行うことを目的として設立された社会福祉法人であり、被告、久子以外に理事が五名、監事が二名選出され、評議員会は設置されておらず、またその定款には、原告の業務の決定は理事をもつて組織する理事会によつて行う、ただし、日常の軽易な業務は理事長が専決し、これを理事会に報告する旨定められていた。

4  原告保育所の収入は、措置費、定数外児童(自由契約児童)の保護者から徴収する保育科、補助金などから成つている。原告は、大阪府から交付を受けた民間社会福祉施設従事職員給与改善費補助金の一部を各常勤職員に支払わなかつたことがあり(すなわち、各常勤職員に実際に支払つた金額(源泉徴収簿に記載された金額)より多額を支払つた旨事業実績報告書に虚偽の事実を記載し、本来年度末に精算して大阪府に返還すべき補助金を返還しなかつたことがあり)、また、昭和五一年度ないし同五三年度の人事院勧告の実施に伴い措置費や右補助金に加算された分を常勤職員に支払わなかつた。しかも、非常勤職員に対する給与の支払については補助金が交付されていないのに、原告は、非常勤職員の一部を常勤職員であるように申請し右非常勤職員に支払う給与についても補助金の交付を受けた。被告は、一条幼稚園において社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入しており、原告においては社会保険に加入しておらず、したがつて原告は被告の社会保険料のうち事業主負担分を支払つていないのに、被告の社会保険料のうち事業主負担分を原告が支払つている旨虚偽の報告をして、被告の社会保険料のうち事業主負担分につき補助金の交付を受けたりもしていた。また、定数外の児童については、その全員について私立保育所乳幼児保育助成金を申請することをせず、その一部について右助成金を申請し、右助成金をあらかじめ予定して保育科を決めていた(すなわち、受け取るべき保育料の総額から右助成金の総額を控除して、それを定数外児童数で除して保育料を決めていた。)。

厚生省が行政指導として定めた経理規程準則(行政指導として定めたもので法規ではない。)によると、昭和五一年度からは、建物、土地などの資産の維持、管理、取得に関する会計である本部会計と、保育所の運営に関する会計である施設会計とを区別して処理すべき旨定められており、これによると、右施設会計に属する保育料収入などを本部会計に属する建物や土地の購入などのための開設費用にあてるための借入金の弁済にあてることは許されていないが、原告は、その開設費用を借入金でまかなつたため、右保育料収入などを右借入金の弁済にあてていた。また、被告は、久子や被告に対して支給する理事及び理事長手当の支給の有無及びその金額を、久子の理事手当は被告と久子との話し合いによつて、被告の理事及び理事長手当は被告自ら単独で、かつ厳密に原告の収支状況を見きわめて決定するのではなく、定数外児童の保護者からの保育科の入金状況を記載した帳簿のみにもとづき、非常に大まかに決定して支給していた。後記のとおり、原告の理事会は昭和五五年三月九日まで一度も開催されておらず、右理事及び理事長手当の支給についても、理事会において事前の決定も事後の承認もされていない。被告や久子以外の理事には、理事手当は支給されていない。なお、被告は右理事及び理事長手当以外に原告保育所の施設長としての給料を、久子は原告保育所の職員としての給料の支給を受けていた。久子は、原告に交付された措置費、補助金の管理保管状況や使途に不明な点があつたうえ、開所以来被告が理事会を開催しようとしないので、昭和五一年ころから前記のような原告における右会計処理に疑惑を抱くようになつた。

5  そして、久子は、昭和五四年一〇月ころ、被告から、大阪府が行う監査に備えて昭和五三年度の決算報告書を作成するための架空の理事会議事録に署名押印するよう求められたさい、当時、夫の豊岡勇と別居していて原告の運営につき勇から指導を受けることがなかつたが、被告に対する不信がつのるあまり、法律家である勇に右一連の状況を相談したところ、勇から右議事録への署名を拒否して正規の理事会開催を要求するように指導されたので、右指示どおり、右議事録への署名を拒否し、被告に対して理事会開催を要求したところ、被告から暴行を受け負傷するということがあつた。

6  原告は、昭和五四年一一月ころ、大阪府民生部社会課及び児童課から監査を受け、原告の経理、補助金の使途など保育所運営の状況が不明瞭であると指摘されたうえ、同年一二月一八日ころ、被告及び久子が右社会課及び児童課に出頭するよう求められ、両名が出頭したさい、社会課の青木主事及び児童課職員の栗田から昭和五三年度の決算書類の作成、昭和五四年度の予算の作成、理事会の開催などを指示され、翌年再度監査を行う旨を告げられた。

7  そのため、被告は、昭和五四年一二月末ごろ、税理士松本淳一に対し、昭和五三年度の決算書作成を依頼した。松本は、大阪府の指示に基づき、昭和五三年度初頭の繰越金及び欠損が存在しないと仮定して調査したところ、二五一万六〇一〇円の使途不明金を発見した。なお、松本は原告のもとに存在する資料の範囲内で調査したのであつて、松本の調査による右使途不明金は、たまたま領収書が存在しないことが原因でそのように処理することになつたものも十分ありうるのであり、要するに文字どおり使途不明金であつて、被告がこれを横領したことによつて生じたものと即断しうる性質のものではない。

また、被告は、昭和五四年一二月二七日、未払としていた昭和五三年度の人事院勧告の実施に伴い措置費及び補助金に加算された分に相当する合計一八五万八〇〇〇円を各常勤職員に支払い、それにより、未払としていた人事院勧告の実施に伴う措置費及び補助金の加算分に相当する金額はすべて各常勤職員に支払を終えた。

8  大阪府民生部社会課及び児童課は、昭和五五年二月一三日から、原告に対し、再監査を行い、原告においては、松本税理士、被告、久子が応対した。再監査の過程で、右大阪府の担当者から、昭和五〇年度から同五三年度にかけて、常勤職員につき、原告が大阪府に提出している民間社会福祉施設従事職員給与改善費補助金事業実績報告書に記載してある給与の支払額と源泉徴収簿に記載してある給与の支払額(各常勤職員に対する給与支払時に交付された給与支払明細書の金額とおおむね一致していた。)に差があること、昭和五〇年度から同五三年度にかけて非常勤職員の一部を常勤職員であるように申請して補助金の支給を受けていること、被告は一条幼稚園で社会保険に加入しており、原告においては社会保険に加入しておらず、したがつて原告は被告にかかる右社会保険料の事業主負担分を支払つていないのにもかかわらず、右社会保険料の事業主負担分につき昭和五〇年度から同五四年度までの間補助金を申請してその交付を受けていたことが、それぞれ指摘されたが、松本税理士が右担当者に説明した結果等により、右事業実績報告書と源泉徴収簿との差額は、右担当者の当初の指摘より少なくなることが確認された。そして、大阪府知事は、再監査の結果、昭和五六年三月一二日、原告に対し、昭和五〇年度から同五四年度までに交付した民間社会福祉施設従事職員給与改善費補助金について補助金交付決定の一部取消決定をし、合計七三四万〇〇八三円の返還を命じ、また同月二四日、右取り消した補助金についての加算金合計三一一万〇五〇七円の徴収処分を行い、さらに同月三一日、枚方市長は、原告に対し、昭和五〇年度民間保育所運営費補助金交付決定の一部取消決定をし、右補助金のうち、職員手当加算のために交付した合計九二万円の返還を命じ、また昭和五三年度民間保育所運営費補助金交付決定の一部取消決定をし、右補助金のうち児童用採暖費加算のために交付した合計三万三〇四五円の返還を命じたが、このうち、大阪府が返還を命じた補助金については、非常勤職員の一部を常勤職員として申請して交付を受けた分と、原告において被告の社会保険料の事業主負担分を支払つていないのにもかかわらず社会保険料の右事業主負担分の支払について交付を受けた分が大部分であり、事業実績報告書に記載されている給与の支払額と源泉徴収簿に記載されている給与の支払額の差額分はほとんどない。

また、大阪府は、昭和五七年二月一九日、昭和五〇年度から同五四年度にかけての原告の決算の結果を記載した書面を原告に交付したが、右決算結果によると原告には合計三三〇二万四五二六円の余剰金が発生したこととなるため、大阪府は、右三三〇二万四五二六円から右補助金の返還を命じた金額を控除した二四七三万一三九三円を原告の施設会計は未収金として計上するように指示したが、当時原告には現実には余剰金は全く存在していなかつた。もつとも、右再監査によつても、原告の収入の使途については必ずしもすべて正確に判明したわけではなかつたが、大阪府は、右決算結果において、使途不明な金額は、全額原告の未収金として計上した。かつ右決算結果の支出の中には金融機関からの借入金によるものは含まれていない。しかも、利用料収入(定数外児童の保護者からの保育料収入)や寄付金収入についても、大阪府は、資料が存在する範囲で判明したものを記載したにすぎない。このように、右決算結果は必ずしも正確なものではない。

9  ところで、被告は、昭和五五年になつても、理事会を開くと久子らから責任を追及され、ひいては被告が原告において占めている役職を剥奪される可能性があるなどと考えて、理事会の開催をせず、かえつて、同年一月一五日ころ、独断で久子以外の理事らから辞表を集めようとして理事らに不信の念を抱かれるようになつたが、原告が同年二月一三日以来大阪府から再監査を受けるに至つたこともあつて、理事らから理事会開催を強く迫られ、ついに同年三月一日各理事宛に理事会開催の招集通知を発した。

10  右理事会は、昭和五五年三月九日午後二時から原告保育所において開催され、理事である被告、細川哲夫、久子、吉崎五郎以外に理事岡田一郎の代理人として豊岡勇、同津田栄造の代理人として八木兼一がそれぞれ出席した。なお、松本税理士と原告の職員である堀絹子も右理事会に同席した。

11  被告は、右理事会において昭和五五年度の決算報告書及び貸借対照表を提出し、松本税理士からそれらにつき説明がされたが、そのさい貸借対照表の流動資産の項に被告に対する仮払金として二五一万六〇一〇円が計上されている旨の指摘があつたので、八木兼一が、被告に対し、その使途につき説明を求めたところ、被告は、そのうち一五〇万一二七五円については弁済したと答えたものの、右仮払金の使途については説明することができなかつたので、被告以外の理事らは決算報告については承認するが、右仮払金については使途不明金として承認しない旨決議した。

続いて、久子は、各理事に使途不明金概算表(甲第二五号証とは別のもの。)を配布したうえ、被告に、定数外児童(自由契約児童)からの収入、原告に対する寄付金などの使途につき説明を求めたところ、この点についても被告から満足のいく説明がなされなかつたため、理事吉崎から被告に対する不信任の意見が表明され、他の理事もこれに同調するに至つた。そこで、被告は、右のとおり経理上の責任を追及された結果、事態の重大さを自覚し、このさい原告における一切の役職を辞職するほかに途はないと決意し、理事長及び施設長さらに理事の職をも辞任し、同月二七日に三月分の報酬を受領したのちは、原告保育所に来ることもなく、原告とは全く没交渉となつた。

12(一)  被告の在任中に原告が他から借り入れた借入金及び右借入金の一部(原告の久子からの借入金)の弁済に代えて原告が代弁済した(久子の)借入金の明細は、別表七記載のとおりである。

このうち、前記のとおり、別表七記載2ないし5の借入金は原告保育上の土地、建物の購入費用に、同6の借入金は原告保育所の建物の空気調整設備の購入費用にそれぞれあてられたものであり、また同1の久子からの借入金はその一部が原告保育所の土地、建物の購入費用にあてられたものであるが、右購入費用にあてられた金額は明らかではない。また、同1―Aの借入金(二〇〇〇万円)は、同1の借入金(一三〇〇万円)の弁済のために借り入れた借入金であり、同1―Bの借入金は、久子が久子の息子(津田ますみ)の自宅の購入費用にあてるために借り入れた借入金(元本九〇〇万円)のうち昭和五〇年一〇月から同五三年三月までの分(合計二八一万六〇三〇円)を、原告において久子に対する同1の借入金の弁済に代えて久子の借入先(住友銀行くずは支店)に代弁済したものであり、同1―Cの借入金(五〇〇万円)は、同1の借入金の弁済のために借り入れた借入金である。同10、11の借入金は、久子が当時所有していた(久子は、昭和四七年三月八日、代金約三〇〇万円で、右土地を原告保育所の運動場の土地の一部にする予定で買い受けたが、久子が右買い受けたのは、当時原告に右土地を買い受けるだけの資金がなかつたからであつた。)原告保育所の運動場の一部の土地(大阪府枚方市西船橋一丁目九六五番六五宅地 七九・三二平方メートル)を、久子から原告が代金五〇〇万円で買い受けるために借り入れたものであり、久子は、久子が右借入金の保証人となつていることを理由に、右借入金の弁済が終了した時点で原告に領収書を交付し、原告への所有権移転登記手続も行うといつて、右売買代金支払後には、原告への領収書の交付及び所有権移転登記手続を行わず、単に右土地の登記済証を原告の代表者としての被告へ交付するにとどまつたが(右登記済証は、現在も被告が占有している。)、右借入金の弁済後も、被告が久子に対して右領収書の交付及び原告への所有権移転登記手続を行うように要求したのにもかかわらず、久子はこれに応ぜず、結局久子は、原告への右領収書の交付及び登記手続を行わないままになつている。同14の借入金は、未払になつていた昭和五三年度の人事院勧告の実施に伴う措置費及び補助金の加算分に相当する合計一八五万八〇〇〇円の金員を各常勤職員に支払うために、借り入れたものである。同7ないし9、12、13の借入金の使途を直接明らかにする資料はない。

(二)  被告が原告理事長在任中の昭和四七年度から同五四年度まで(原告保育所開設以来昭和五五年三月まで)の間に定数外児童(自由契約児童)の保護者から徴収した保育料及び寄付金収入(当時、保育料及び寄付金収入をまとめて扱つていた。)についての別表八の右収入欄の金額は、被告が原告の所有にかかる金員を業務上預り保管中これを横領したとして、原告によつて検察庁に告訴され、検察庁で取り調べを受けたさいに検察官に示された表記載の金額を検察官の了解を得てそのまま転写したものであるが、検察官及び検察事務官は、右表の金額を、昭和四七年度ないし同四九年度の分については、右保育料、寄付金収入の受領の有無及びその金額を記載した帳簿が存在しないため、被告の記憶にもとづいて算出し、かつ昭和五〇年度ないし同五四年度の分については、右帳簿が存在しているので右帳簿の記載にもとづいて算出したのであるから、被告が検察官に示された右表は、その正確性について一応の裏付けがあり、したがつて、これと金額を同じくする別表八の収入欄の金額は、原告が理事長在任中の定数外児童の保護者から徴収する保育料及び寄付金収入の合計額を表わすものとして一応正確なものである(昭和四七年度ないし同四九年度の保育料、寄付金収入については、右のとおり被告の記憶にもとづいて算出したものであるが、実際とそれほどの差異はない。)。

(三)  被告が原告理事長在任中に他から借り入れた借入金(別表七記載の借入金)の弁済状況についての別表四の一ないし八の金額も、右被告が取り調べを受けたさいに検察官に示された表の金額をそのまま転写したものであるが、検察官及び検察事務官は、各銀行から取り寄せた各銀行作成の借入金の弁済状況を記載した書類をもとに右表を作成したものであり、被告が住友銀行梅田支店から入手した別表七記載4の借入金の弁済状況の一部を記載した右支店作成の書類(乙第二〇号証)、及び京都銀行くずは支店から入手した同10(乙第二一号証)、同12(乙第二二号証)、同13(乙第二三号証)、同14(乙第二四号証)の各借入金の弁済状況の全部を記載した右支店作成の各書類(乙第二一ないし第二四号証)とも符合しているので、被告が検察官に示された右表は、その正確性についてかなりの部分について裏付けがあり、したがつて、別表四の一ないし八の金額は、被告が理事長在任中に他から借り入れた借入金の弁済状況を表わすものとして一応正確なものではあるが、別表七記載6の借入金については合計三三〇万円弁済しただけになつている理由を明らかにする資料がなく、また同7ないし9の借入金については別表四の一ないし八の弁済額を合計しても各借入金額に等しい金額にしかならないので元本の弁済状況のみを記載したものでしかない、などの不正確な点を残している。

(四)  被告の原告理事長在任中の非常勤職員に対する人件費についての別表八の非常勤職員に対する人件費欄の金額は、前同様に被告が検察官から示された表の金額をそのまま転写したもので、これも一応正確なものである。もつとも、右金額はいずれも万単位で示されているので、概数にすぎない可能性があるが、実際の金額とは大差がない。

同じく、被告が原告理事長在任中の理事及び理事長手当の支給状況についての別表九の金額も、前同様に被告が検察官に示された表の金額をそのまま転写したもので一応正確なものである(なお、被告は、被告が理事長在任中の理事長手当の支給状況は別表五記載のとおりである旨供述しているが、原告の会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三一日をもつて終わることなどから考えると、暦年で区分した別表五より右原告の会計年度で区分した別表九の記載の方が正確なものであるといえる。)。

(五)  原告保育所の開設費用にあてた借入金を除外すると、定数内児童の保育のために要する費用は、全額当該年度に交付された措置費、補助金でまかなうことができる(すなわち、常勤職員の給与、給食費、教材費、事務費、光熱費、役務費、福祉厚生費などは、すべて措置費、補助金でまかなうことができる。)。したがつて、原告の措置費、補助金以外の収入(定数外児童からの保育料及び寄付金収入、私立保育所乳幼児保育助成金、原告保育所の資産の取得、管理、運営以外の使途にあてられた借入金(別表七記載1―A、1―C、7ないし9、12ないし14の借入金))は、借入金の弁済、理事及び理事長手当、非常勤職員に対する人件費の各支払にあてられたことになるが、その年度別収支状況を表にすると別表八記載のとおりになる。

以上のとおり認められ、〈証拠〉中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし措置することはできない。

第二主位的請求関係

1  右第一で認定した事実にもとづき、まず原告の主位的請求につき判断することとする。

なるほど、大阪府の原告に対する監査の結果に基づく昭和五〇年度ないし同五四年度の原告の決算結果によると、国、大阪府、枚方市から原告に対して交付された措置費、補助金、及び被告が保育児童の保護者から原告のために集金した保育料、入園料、保育材料費、冷暖房費、協力寄付金等のうちから、合計三三〇二万四五二六円の余剰金が発生したことになつているところ、当時現実には原告には余剰金が全く存在しなかつたのではあるが、右決算結果は正確とはいえず、むしろ被告の原告理事長在任中の定数外児童の保護者からの保育料及び寄付金収入、私立保育所乳幼児保育助成金、原告保育所の資産の取得、管理、運営以外の使途にあてられた借入金の合計額及びこれに対する支出額の年度別収支状況は、別表八記載のとおりになり、支出額が収入額を上まわつていると認められるから、右監査結果をもつて被告が右三三〇二万四五二六円を原告に引き渡さず、これを横領したものとみることはできない。

2  その他本件全証拠によつても、被告が原告理事長兼施設長在任中の昭和五〇年度以降同五三年度までの間に、原告に対して交付された措置費、補助金、及び、被告が保育児童の保護者から原告のために集金した保育料、入園料、保育材料費、冷暖房費、協力寄付金等のうちから、原告の施設会計に留保されていなければならない金員を原告に引き渡さず、これを横領したとまでみることはできないから、右のことを前提とする原告の主位的請求(不法行為による損害賠償請求権、委任契約による受取物引渡請求権ないし委任契約上の債務不履行による損害賠償請求権にもとづく請求)は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

第三予備的請求関係

1  次に、原告の予備的請求について、前認定の事実をもとに判断することとする。

別表七記載ないし9、12ないし14の借入金、理事及び理事長手当の支給を除外して考えると、次のとおりになる。

すなわち、被告が原告理事長在任中(昭和四七年度から同五四年度まで)の定数外児童からの収入、私立保育所乳幼児保育助成金、及び別表七記載1―A、Cの借入金の合計額は八五二四万七五〇〇円になるが、これから、別表七記載1及び2ないし6(原告の開設費用のための借入金)、同1―A、B、C(同1の借入金の弁済のための借入金)、同10、11(原告の運動場の土地の一部を買い受けるための借入金)の各借入金のうち被告が原告理事長在任中に弁済した金額である五九六三万八五五四円(別表四の一ないし八のうちの右各借入金についての弁済額の合計)及び被告が右在任中に支払つた非常勤職員に対する人件費の合計額である一一七六万円を控除しても、計算上は一三八四万八九四六円の利益が生ずることになる(のちにみるように右金額自体は必ずしも正確なものではない。)。

右の利益が、被告が原告理事長辞任時に原告のもとに存在しないことをもつて、直ちに被告の原告に対する委任契約上の債務不履行ないし不法行為があつたとはいえない。

しかしながら、別表七記載7ないし9、12ないし14の借入金は、原告の資産の取得、管理、運営にあてられた借入金の弁済ないし非常勤職員に対する人件費の支払のためには不要であつて、右借入金が原告のために使われたとすれば、考えられる唯一の使途は、右原告の利益を越える理事及び理事長手当しかない。右各借入金は、右14の借入金が、直接には、未払になつていた昭和五三年度の人事院勧告の実施に伴う措置費及び補助金の加算分に相当する合計一八五万八〇〇〇円の金員を各常勤職員に支払うために借り入れたものであるように、その全額自体が直接右原告の利益を越える理事及び理事長手当の支払にあてられたものとはいえないが、直接には別の使途にあてられたとしても、右14の借入をしなければならなかつたのは、右原告の利益を越えて右一八五万八〇〇〇円相当の理事及び理事長手当の支払がされたことによるものであると考えられるところであり、この例からもわかるように、直接的には別の使途にあてるためにされた借入であつても、その借入をしなければならなかつたのは、原告の利益を越える理事及び理事長手当の支払がされているためであつて、その支払がなければ借入の必要がなく、その元利金債務及びその弁済義務を負うこともなかつたということができ、結局、右各借入金は、特別の事情のない限り、その全額が右原告の利益を越える理事及び理事長手当の支給が原因となつて生じたものであり、さらに換言すれば、特別の事情のない限り、右借入金の元金額は右原告の利益を越えた理事及び理事長手当の支給額を示すことになるともいえる。

ところで、被告は、久子や被告に対して支給する理事及び理事長手当の支給の有無及びその金額を、久子の理事手当は久子との話し合いによつて、被告の理事及び理事長手当は被告自ら単独で、かつ厳密に原告の収支状況を見きわめて決定するのではなく、定数外児童の保護者からの保育料の入金状況を記載した帳簿のみにもとづき、非常に大まかに決定して支給しているのであつて、右理事及び理事長手当の支給について理事会から事前の決定も、事後の承認も受けていない。原告は、原告保育所の設置経営(第二種社会福祉事業)を行うことを目的として設立された社会福祉法人であるが、そもそも社会福祉法人が理事及び理事長手当を支給する(具体的には社会福祉法人の代表者たる理事ないし理事長が法人を代表して支給する)ことは、民法ないし社会福祉事業法に右理事及び理事長手当についての規定がないことからも窺われるように、本来予定されていることではなく、まして右法人の行う事業により理事ないし理事長の利益を図ることは、右法人の設立目的に反し、とうてい許されないのである。したがつて、かりに理事及び理事長手当を支給するとしても、その支給の有無及び金額を厳密に原告の収支状況を見きわめて決定し、かつその金額は、原告の利益の範囲にとどまるべきであるし、また、民法等の法規の趣旨に照らしても、法人の業務の決定は、日常の軽易な業務を除き、理事会によつて行うべきものであつて(原告の定款にもその旨の定めがある。)、理事及び理事長手当の支給といつた重要事項については、理事会の事前の決定にもとづいてこれを行わなければならないというべきであるから(右理事会の事前の決定にもとづかずに理事及び理事長手当を支給した場合には無権代理行為になる。)、右のとおり、被告が、原告の理事会の事前の決定にもとづかずに(事後の承認も得ていない。)、当該理事手当の支給を受けるべき理事(久子)との話し合いないしは当該理事及び理事長手当の支給を受けるべき被告自ら単独で、しかも支給の有無及び金額を厳密に原告の収支状況を見きわめて決定せずに、原告の利益を越える理事及び理事長手当の支給を決定し、かつこれを支給することは許されないというべきであり、そのような場合は、被告は、原告の理事長すなわち原告から委任を受けた受任者としての善良な管理者の注意義務に反することになり、原告に対し、委任契約上の債務不履行(なお、同時に原告に対する不法行為を構成することになる。この点は、後記のとおり、遅延損害金の起算日に関係する。)により、原告の被つた損害である右借入金(すなわち、右原告の債務不履行(ないしは不法行為)がなければ借り入れる必要のなかつた借入金である。)の元利合計額を賠償すべき責任を負担するといわねばならない(なお、右借入金(別表七記載7ないし9、12ないし14の借入金)の元利合計額には、当然のことながら原告の利益を越える理事及び理事長手当の支給額以外に借入金の利息相当分が含まれているし、また右借入金は、直接には、右原告の利益を超える理事及び理事長手当の支給をしない場合には不必要であつた借入による債務の弁済にあてられた可能性もないわけではなく、そうすると前記元利合計額中には右不必要な借入によつて生じた利息額も含まれている可能性がないわけではないが、第一で認定した事実によれば、被告は、原告の理事長及び施設長として、原告の収支状況を十分認識しており、右原告の利益を越える理事及び理事長手当支給時に、右理事及び理事長手当を支給すれば、その支給をしない場合には不必要であつた借入をしなければならず、さらに右不必要な借入金の元利合計額を弁済するためにさらに不必要な借入をしなければならなくなる事態が生じうることを予見することが可能であつたと推認することができるから、右別表七記載7ないし9、12ないし14の借入金の元利合計額のうち、右原告の利益を越えた理事及び理事長手当の支給額を除いた部分も、民法四一六条の特別の事情により生じたる損害として、被告には損害賠償義務があるといえる。)。

そうすると、被告は、原告に対し、右原告の利益を越える理事及び理事長手当を支給するために借り入れた別表七記載7ないし9、12ないし14の借入金の元利合計額(そのうち元金は一七五〇万円である。)を賠償すべき責任を負担するというべきである。

なお、計算上は右理事及び理事長手当の支給額計二五二〇万円(別表九)のうち前記計算上の原告の利益を越える分は一一三五万一〇五一円になり(これには、概算の要素が含まれている。)、右借入金の元金である一七五〇万円に達しないので、右借入は、その全額が右理事及び理事長手当を支給することが原因となつてこれをしなければならなくなつたものではなく、その一部は原告の有する金員を原告以外の者の利益(被告ないし第三者の利益)のために使われたことが原因となつてこれをしなければならなくなつたものであるとも考えられるが(既にみたとおり、本件全証拠によつても、被告が原告の理事長兼施設長在任中の昭和五〇年度以降同五三年度までの間に、原告に対して交付された措置費、補助金、及び、被告が保育児童の保護者から原告のために集金した保育料、入園料、保育材料費、冷暖房費、協力寄付金などから、原告の施設会計に留保されていなければならない金員を原告に引き渡さず、これを横領したとまでみることはできないが、前記認定事実から、被告が、右在任期間中に、借入金を含めた原告所有の金員を原告以外の者の利益のために使つた可能性があることまでは推認することができる。)、原告所有の金員が原告以外の者の利益のために使われたとすると、被告の委任契約上の債務不履行(なお、同時に不法行為を構成することになる。)は、一層明白であるから、いずれにせよ、被告が右別表七記載7ないし9、12ないし14の借入金の元利合計額の賠償責任を負うことを否定することはできない。また、別表八記載の定数外児童の保護者からの収入、借入金の弁済、非常勤職員に対する人件費には多少不正確な点があるが、それも実際とそれほど大差があるわけではなく、右のとおり、別表七記載7ないし9、12ないし14の借入金、理事及び理事長手当の支給を除外して考えると、一三八四万八九四六円の利益が生ずることになり、右不正確な点を考慮に入れても、なお右借入金、理事及び理事長手当の支給を除外して考えると原告には利益が生じていることを否定することにはならないので、この点も被告の右別表七記載7ないし9、12ないし14の借入金の元利合計額の賠償責任を妨げるものではない(つまり、別表八記載の定数外児童からの収入は、昭和四八年度及び同四九年度の実際の金額が零であるとしても、右別表記載の金額より二四〇万円減少するものであるにすぎず、同表記載の借入金の弁済分についても、別表七記載6の借入金につき、かりに利息制限法所定の最高限の利息が付されたとしても、別紙計算書(二)のとおり、元利合計額は五一八万円になり、別表四の一ないし八に記載された右借入金の弁済金より一八八万円多くなるにすぎず、また別表八記載の非常勤職員に対する人件費が万単位未満を切り捨てたものとしても、実際の金額は同表記載の金員より七万円(一万円×七)未満の増額にとどまり、結局別表七記載7ないし9、12ないし14の借入金、理事及び理事長手当の支給を除外して考えると、少なくとも前記一三八四万八九五一円から右二四〇万円、一八八万円、七万円の合計額四三五万円を控除した九四九万八九四六円の利益が生ずることになる。)。

もつとも、この点につき、被告は、被告の支給を受けた理事及び理事長手当を原告の借入金の弁済にあてた旨の供述部分があるが、右部分は、別表七記載7ないし、9、12ないし14の借入金、理事及び理事長手当の支給を除外して考えると、原告には利益が生ずることになることと対照して、とうてい措信することはできない。他に、右被告の損害賠償責任を妨げるに足りる証拠はない。

2  さらに、原告は、被告が原告の理事長辞任時に原告のもとに存在したはずの利益(1でみた利益)相当額の支払をも、別紙七記載7ないし9、12ないし14の借入金の元金合計額相当額の支払を求める以外に、求めているが、被告が原告理事長辞任時に原告のもとに存在したはずの利益(その正確な金額は必ずしも明らかではないが、少なくとも九四九万八九四六円を越えるものとはいえる。)が、別表七記載7ないし9、12ないし14の借入金の元利合計額(元金合計額だけでも一七五〇万円はある。)を超過していると認めることはできないので、右借入金の元利合計額とは別個の損害が生じたものとみることはできない(右借入金の元利合計額相当額の損害は、右原告のもとに存在したはずの利益相当額の損害をも包含しているとみることができる)ので、右被告が原告理事長辞任時に原告のもとに存在したはずの利益相当額の支払を求める部分は理由がない。

3  したがつて、原告は、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、別表七記載7ないし9、12ないし14の借入金の元金合計一七五〇万円(実際には、右借入金の元利金合計額の支払を求めることができるが、原告は元金合計額のみを損害として主張しているから、元金合計額の限度でしか認容できない。)及びこれに対する右金員を請求した日の翌日(原告の昭和六〇年三月二九日付準備書面の送達された日の翌日)である昭和六〇年四月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ、さらに不法行為による損害賠償請求権に基づき、右金員に対する不法行為の後である(被告が原告の理事長及び施設長を辞任した日の翌日である)昭和五五年三月一〇日から昭和六〇年四月一五日まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができることになる。

よつて、原告の予備的請求は、右一七五〇万円及びこれに対する昭和五五年三月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある。

第四結論

以上の次第で、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権、委任契約による受取物引渡請求権、ないし委任契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、三三〇二万四五二六円及びこれに対する不法行為の後ないし遅滞に陥つた後である昭和五五年三月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の主位的請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、委任契約上の債務不履行ないし不法行為による損害賠償請求権に基づき、二八〇一万円及びこれに対する債務不履行ないし不法行為の後である昭和五五年三月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の予備的請求は、委任契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、一七五〇万円、及びこれに対する右金員を請求した日の翌日である昭和六〇年四月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、さらに不法行為による損害賠償請求権に基づき、右金員に対する不法行為の後である昭和五五年三月一〇日から昭和六〇年四月一五日まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある(結局、原告の予備的請求は、一七五〇万円及びこれに対する昭和五五年三月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があることになる。)からこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岨野悌介 裁判官富田守勝 裁判官中村也寸志)

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